火星にショッピングモールができたら、取り立ててやることない。
火星といわず、銀河の果てでも、宇宙の彼方でもショッピングモールがあれば生きていける。食べ物、ファッション、レジャー、仕事、憩い。この環境が整うインフラとエネルギー。気軽に通える距離にある住居と移動手段。
ショッピングモールがあればというより、人間はこの「高機能高効率コンパクト装置」を作らずにいられないだろう。宇宙の彼方まで行って、土日はショッピングモールかぁ。
真夏の真っ昼間。ショッピングモール近くにある安物の殿堂〇〇衣類店で、トランクス2枚500円を買う。1000円ぐらいを予想していたが半額。1000円のトランクスも売っていたが、もう手が出ない。コットン100%だし、なにが違うのか。
トランクスを助手席に放り投げて、ショッピングモールの喫茶店に向かう。真っ昼間の暑さをしのぐ計画だ。個人の喫茶店も魅力的だが、ショッピングモールは、トランクスついでにしか行こうと思わないだろう。500円トランクスがダメになっても、行かないだろう。
ショッピングモールに向かう道路に右折するだけで待つ。エアコンが効かない車内でジリジリ待つ。右折しても渋滞、駐車場に向かうために右折しても、ココは空いている。平日の真っ昼間だからか。土日はココを通り過ぎるだけで大変だ。
だだっ広い駐車場。母親に暑さより駐車場に車を停めるとき、どこに停めたか覚えとかない大変なことになると釘をさされていた。近くの薬局でもどこに車を停めたか忘れて探す人間だから、この炎天下、ショッピングモールの駐車場の海で自分の車を探すのは、地獄だ。
ショッピングモールに入る。これでもかというお店の羅列、おなじみの顔ぶれ。出入り口に物欲センサーが付いたらボクは入れてもらえないだろう。消費のために街がそこにある。
食べ物、衣類、雑貨、レジャー、喫茶店などなど、一通りあるのに、2階に行くともう一通りある。3階に行くとなにもない。待合所にエアコンもない。ドアの向こうに駐車場。女子2人組がベンチで座っている。1、2階に休むとこはあるけど、なんとなく分かる。疲れる。
肝心の喫茶店がない。地図で探そうとしても店か多すぎる。分かりやすいように、ジャンルで色分けされている。あらためてスゴい店の数だ。メジャーの喫茶店は、ある。3つも。パンを食べながらコーヒーを期待していたが、分からない。お店の名前・ジャンルより用途で調べたい。「パンを食べながら一休み」。
歩き回って、テナント酔いになりながら、場末にあるスーパー直営のパン屋を見つけ出す。コーヒーは自動セルフ。メジャーの喫茶店にしようか。パンがない。駅前と街中と違いがない。「ココでしか」と考えるとココ、スーパーのパン屋しかないか。
うかつにもメジャーの喫茶店のレジ対応を期待していた。愛想もなにもないオバちゃんの接客。セットメニューにパンを追加したいと頼んだら、めんどくさい顔された。ですよね。セットお願いします。
パンとコーヒーのセットを買って、通路が見えるカウンター席に座る。カウンターの反対側に60近い作業着を着た男の人。空の弁当のカウンターに置いて、スマホを充電しながらスマホを見ている。パンを買った人、じゃないけど、場末しか食べるところがなかったか。
コーヒーを入れてカウンターに戻ると、隣に若者が座っている。なにも買わずにスマホを見ている。充電でもしにきたか。せめてなにか買えばとも思わない。楽しそうでもないし、どこから来てどこへ行くのだろう。
目線をさらに奥の出入り口に向けると行列ができている。行列なんてしなくても同じような店ならいっぱいあるのに、なんだろ? ATMらしい。ああ、25日、給料日か。
いつも思う。前日にお金を下ろせばいいのに。前日にATMが行列になってるのを見たことない。ATMもそうだけど、あらゆる行列に並ぶ時間とエネルギーがもったいない。
お亡くなりにならないかもしれないし、お亡くなりになるかもしれない前提で生きてたら行列に並ぶだろうか。
前日に1ヶ月分下ろすお金がないなら、3日分だけ下ろして、3日後、ヒマな時に下ろす。手数料を取る銀行だったら銀行を変える。
仕事をおえたオバちゃん2人組がパンを買って座る。ココで14時まで働いていたようだ。ココで稼いで、ココで使う。「ショッピングモールには人生が詰まっている」を垣間見る。
みんな夏バテなのか、静かだ。テナント通りのベンチにすわるオバちゃんはどこを見てるのか分からない。楽しそうなのは子供と外国人の若者。買った物で楽しんでいる。みんな、消費に疲れている。
料理をしてると分かるけど、作るが9割。食べるが1割。生産が9割、消費が1割にあてはめられる。そりゃ、おもしろくないのは致し方ないよな。
隣の若者が立ち去っていく。カウンターの端の作業着の男性はウトウトしている。14時まで働いていたオバちゃんが出ていって、外で声をひそめて話をしている。ひっきりなし行き来する人。人だけが浮かび上がる。
一人一人、オリジナルの経緯でここに来たのに、同じ消費行動をして出ていく。ショッピングモールという鋳型に入れられてリリースされていく感じだ。
家の手伝いの時間が気になって席を立つる。15時。暑いだろうな。体にこたえるというより、災害。駐車場の車、あそこだったよなあ。あそこであってくれっ。
ショッピングモールの出入り口に向かう。ふと、思う。火星にいるのと変わらないのではないかと。外が危険で出られない。でも、ココなら、生きていくだけなら、生きていける。