ホントにあったお話です。
きっかけは失業保険だった。「失業保険をもらわないと損する」という発想からスタートする。正確には、失業保険の手続きに必要な「離職証明書」なるものが、職場から実家に届くのに1ヶ月ぐらいかかる。離職証明書のおかげで、1ヶ月は気兼ねなくゴロゴロできる。
できれば手違いで半年ぐらい届いてほしくなかった離職証明書が届いてしまう。母親に離職証明書が入った封筒が見られないようにコソコソと2階に駆け上がる。あと2週間、時間かせぎできないか。首を長くして離職証明書を待っている母親に、ウソはつけないか。
失業保険はタダでもらえると思っていたが、まず失業保険を申請するには、いろいろな事情がある人は別として「辞めてから1年」と期限があるようだ。辞めた翌日に離職証明書を持って失業保険の申請する人がどれだけいるんだ。実質11ヶ月と考えた方がいい。
問題は「就職活動をしている人」が対象になっていること。いろんな事情がある人は別として、家でゴロゴロしているだけの人は失業保険の対象外なのだ。失業保険が、次の就職までの「保険」と考えれば当たり前といえば当たり前だが、社会はそんなに甘くはなかった。
では、就職するか。1ヶ月前「死ぬまで就職しないだろう」とUターンしてきた男が、失業保険のお金のために志を失うのか。それどころか、就職するつもりがないのに、就職するつもりがあるフリをして、魂まで売りわたすのか。
「失業保険はもらわない」と決めて、失業保険をもらう方法を調べてみる。ハローワークのメンバー登録をしてハローワークの窓口で失業保険の申請をする。次に再就職の説明会を受ける日取りを決めて1回目の手続きが終わる。
月に「2回」就職活動をしなければイケないのか。就活をした証拠がないと失業保険がもらえない。失業保険がもらうまでにいろんな事情がある人は別として3ヶ月かかる。その間も就活、失業保険をもらっている3ヶ月間も就活、月2回×6=12回の就活。
ネットで調べると、失業保険を受け取るテクニックがいっぱい書いてある。ほとんどが就活のテクニックで、ハローワークに毎月通う前提のテクニックしか書いてない。そこが一番、めんどい。いっそ、あきらめるか。まだ時間はある。頭の片隅で抜け道を考えるようになる。
いずれにしても、ハローワークのメンバー登録は必要らしい。めんどうだが、ネットでメンバー登録をする。就職したい人が登録する画面だから、根掘り葉掘りいろんな設問があって時間がかかりそうだ。コンビニバイト20年じゃ全然、空欄が埋まりません。
求人してる会社にこの情報が送られるらしい。ウソは書けないから、さらに空欄だらけになる。短期バイトはするつもりだから、チェックする。これだけで「是非ともわが社に」とはならないだろうな。世の中は必要とされてないな。
1ヶ月が経つ。あと10ヶ月か。失業保険の手続きと受給にかかる時間を考えると、4ヶ月以内に申請しないと間に合わない。これ以上、失業保険のことで時間もエネルギーも使いたくない。なんのためにUターンしてきたんだ。
短期のバイトを探し始める。「地方ならでは」の仕事は見当たらない。東京と変わり映えしない仕事ばかり。Uターンして同じことをしたくない。なにもしなくでも実家にいくらかお金を入れて、税金を払っても2年ぐらいはイケる。ゆっくり考えるか。あ、でも、失業保険。
失業保険をもらうつもりはないが、仕事をどうする考えるきっかけに、失業保険はなったようだ。ホントに仕事をしないのか、するのか。歳をとって分かったのは、仕事の内容に大差はないこと。どれだけホンキでやるか、だけ。ホンキでやるなら面白そうな仕事がいい。
ない。「便利屋」が短期で募集していて唯一、面白そうだ。「おっ」。詳しく調べると自転車で通えそうな距離だ。よし、働いてみるか。やることは決まったから、すぐに働かなくてもいいか。
「あれ?」と、思い出す。「まったく関係ない」と読み飛ばしていた失業保険の特例の話のことだ。「開業した人は失業保険の期限を3年間延長できる」。正確には、開業している間は申請期間がストップしてカウントされない。廃業したら、そこからカウントが再開される。
「開業かあ」。Uターンしたら父親の実家の土地で「なにか」しようとしたことを思い出した。兄貴から父親の土地をもらえる予定だったが、しらばっくれられて頓挫していた。
実家で「なにか」してもいんじゃないか。ありかもしれない。突然、視界が開けてきた。誰かの下で働くより面白そうだ。失業保険どころじゃなくなる。いったい、なにをする? なにができる?
なにもできない。なんでもできるよう便利屋に修行でも行くか。それだと、お世話になった便利屋の仕事を奪ってしまうかもしれない。できるだけ、他の仕事とカブらない仕事がしたい。それが結局、他にない面白い仕事になるだろう。
なにも思いつかない。そういえば、コンビニも「便利」という意味だ。老若男女いろんな相手とつつがなく接することができる。テクニックはなにもないが、そつなく使いこなすことができる。お客さんの生活の「潤滑油」のような仕事ができないだろうか。
これだ。「だれに」「なにを」「いつ」「どこで」「どうやって」売るか。商売をは何ヶ月も計画・準備しなければ成功はおぼつかない。それをいっさい飛ばして気がついたらホームページを作って、税務署で開業届を出していた。
ハローワークで担当者に開業届を話す。「特例申請」には開業か、開業準備をしている具体的な証拠が必要だ。3年後、失業保険の申請でお世話にならないことを願って、ハローワークをあとにした。
そして、開業1ヶ月。誰からもどこからも問い合わせがない。問い合せがあったら焦りそうだ。さすがに、もっと練らないとマズいか。3年、だれの役にもたたずに廃業するかもしれない。
おいおい、こんなテキトーに開業してるやつがいるよ。はい、こんなテキトーなやつでも開業はできるんです。どうですか? やりたいことが見つかって、開業したら楽しいですよ。